60年も歌うことができなかった
69歳の方と出会いました。
どうしても恥ずかしくて人前で声を出したり
歌ったりすることがどうしてもできなかった。
短歌が大好きで、短歌会に所属していたものの、
短歌を歌に乗せて吟じる機会は
すべてパスしてきたんだそうです。
「私は歌えないから」
そう頑なに信じて、
周りの人もそう信じていました。
あまりにもその期間が長かったから、
すっかりそのきっかけとなった出来事を忘れてしまった。
そして、ただ
「私は声を出しちゃいけないんだ」
という思いだけが残ってしまった。。。
この方は最初私の整体の患者さんでした。
もともとは「手足の極度の冷え、背中の痛み」を改善する
ために始めたのです。
実際にカラダを触らせていただくと、
手足が冷たく、特に指先はまだ暖かい季節だというのに
凍りついたように冷えて固まっていました。
背中も左側が特にこわばり、
うつ伏せに寝ると極端に盛り上がっているのが
一目瞭然なほどでした。
カラダ全体もギュッと縮こまって、
何かから身を守ろうとしているかのようでした。
それでこの方が一番楽になる方法として
私が選択したのは「対話」でした。
施術をしながらずっとお話を聞いていました。
当たり障りのないことから、
どういうことに興味を持っているのか?
これまでどういう経験をしてきたのか?
どういう想いを持っているのか?
ずっと聞いていました。
その中から見えてきたことは
「自分を抑えてでも周りのために頑張ってきた」
ということでした。
その源泉をたどると幼少期の出来事に
行き着き、そのとき選んだ生き方が
その後の人生を形作ってきたことも。
「自分の感情を抑え込んででも、
周りの期待に応えようとする」
このことが、常に緊張感を生み、
カラダを強張らせているのだとわかりました。
そして、お話ししていると面白いことが起き始めます。
カラダがゆるみ始めるのです。
「私ってこんなこと考えていたんですね。」
そう気付くたびに、
カラダがどんどん緩んでいきました。
施術が終わる頃には手足も温まり、
背中の強張りも大きく改善していきました。
【本当は歌いたかった】
そして、何度か施術を重ねていくうちに
あるエピソードに出会いました。
「私は歌うことが苦手なんです」
その方は続けました。
「小学校の頃に先生から
『あなたは下手だから歌わないで』
と言われてしまって・・・」
それ以来、人前で歌うことが
恥ずかしくてできなくなってしまったのだそうです。
「それまでは歌は大好きだったんです。
自分は音痴だから歌っちゃいけないんだ、
そう思っていたんですが、
これがきっかけだったんですね。」
それから60年、ずっと歌うことを封印してきたそうです。
歌うことだけではなくて、
「人前でしっかりと声を出して主張する」
このことも苦手に思ってきたと言います。
でもそんなことはすっかり忘れていた。。。
さらにお話を伺うと実は自分の中に
蓋をしていた「ある感情」があったことに気付きました。
それは
「ずっと、私は歌いたかった!!」
さらに続けました。
・自分の声に自信がなかったこと
・人前でしゃべることが苦手だったこと
・歌うなんて絶対してはいけないと思っていたこと
・話すと「怒ってる?」と誤解されることがあること
・自分の声が頼りなく感じていたこと
・短歌会で朗々と吟じる人に憧れを抱いていたこと
・本当は自分もそうやって歌いたいと思っていたこと
それに気づくと面白いことが起こりました。
その方の声がみるみるうちに輝きを増していったのです。
もともと表面的には「優しげで柔らかい声」でした。
でもそれは裏をかえすと
・自信のなさの表れであり、
・感情表現をしてはいけないと自分を抑えていた結果
だったのです。
自分の想いに気づいたとき起こったのは、
自分を受け入れることであり、
それによって声にエネルギーが乗り始めました。
そして打ち立てた目標は、短歌会で歌うこと。
60年間抑えていた歌うことへの想い。
69歳の新しいストーリーが始まった。