声は心と響き合う

私は長年たくさんの人の声に触れてきました。 それ以上に自分自身の声と深く向き合ってきました。 そのせいか、声の微細な感覚が分かります。 お腹がシクシクと痛いときは力強い声が出ないとか 元気いっぱいの時は声に張りが出ることから分かるように 体と声は密接に関係しています。 また、心配事があったりすると声も弱くなったり ウキウキしているときは声が弾んだりもしますよね。 声の響きにはその人の心が乗っているんです。 仕事で忙しくて余裕がなくなっている時、 ふとかけられた声の響きに癒やされる。 そのときのほっとした感覚。 技術は拙いけれど 心から届けたい相手のことを考えて発した声、 そんな声から生み出される感動の感覚。 声は心と響き合うんです。 だから、誰だって 自分の心を表現したい 想いを誰かに届けたい 感動を分かち合いたいって思っているんです。 発声をみることは大事です。 プロとして私は声としっかりと向き合います。 しかし、声に悩みがあるから、 ただ発声を改善する、 それだけで本当に感動は生まれるのでしょうか。 確かに声は出やすくなるかもしれません。 でも心の底からの喜びが沸いてこないことも 多いのではないでしょうか? 先生が発声の問題点を発見して レッスンで発声法を習い、 先生が正しく出来ているか判断しておしまい。 そんなふうに心が響かないテクニック重視の声 を目指してしまっているのが、 ボイストレーニングの現状ではないでしょうか。 結局それは声を音としか捉えておらず、 見たり触ったりできない声に対して 愛情を注いでいることには ならないのではないでしょうか。 心を響かせるという感覚を少しでも感じて欲しいのです。 私がボイストレーニングにのめり込んでいたころ、 レッスンを受けていて 不思議に思うことがありました。 自分の声を改善するためのレッスンを受けると 先生が 「はい、できました」「ここはまだ出来てないね」 と言ってくれます。 私は 「そうか、できたのか」「次の問題は○○か。」 と思う。 私は声の問題がひとつ解決したので 次の問題解決に向けてまた練習しようと思っている。 ひとつの問題は解決したけど次から次に問題が表れる。 いつまでも私の声は問題だらけなのです。 これって何かがおかしいと思いませんか? そうです。 私も先生も 発声の問題を解決することだけをみていて、 問題がある前提で取り組んでいたんです。 そのことが自分の声への信頼感を少しずつ減らしていたことに 私は気づくことが出来なかったのです。 私が目標にするのは、 声を出すだけで心がワクワクして 歌うことが本当に楽しくなる。 そして 声の響きにその人らしさが乗り 本当に心からの喜びが伝わってくる。 そんな場面に立ち会うことです。 すなわち”心が響き合う声”です。 発声の目的は いったいなんでしょうか? 答えは人によってそれぞれだと思いますが、 そのひとつとして、 ”心からの感動” があると思います。 感動を生み出すということを考えたときに、 自分のことだけを考えることはできないはずです。 ”誰かとの感動”ということを考えることが必要になります。 たとえ素晴らしいテクニックを身につけたとしても 誰とも共感することなく たった一人だけの世界だったとしたら、 それに果たして”心からの感動”が生まれるでしょうか。 逆に、 どんなに発声が拙くても、 声が掠れたり裏返ったり音を間違えても 誰かのことを深く心を尽くして想っていたとしたら、 その声の響きはきっと誰かと共鳴し、 ”心からの感動”を生み出すのではないでしょうか? 私は発声の目的とは”感動を共鳴させる生き方”ととらえています。 心を響かせずに ただ声の問題点だけをみて テクニックで改善するとなると、 表面的には確かに問題が 改善することもあるでしょう。 でもそれは本当にその人の心が 響いているわけではありません。 そうやって何度も テクニックを駆使して声は改善しても 新しい問題が次々にあらわれて止むことがなく、 心は次第に重たく冷たくなっていって、 自分の声が信じられなくなって、自信を失っていきます。 そういった状態で 心が響かないまま声を扱っていくと 本当に幸せであるとは言えないのではないかと 私は長年声と向き合ってきて思うのです。 自分が声を出す瞬間、 「ああ、 自分の声はこれで良かった。 この声で生まれてきて 本当に幸せだったな。」 そう思いながら声を響かせる。 毎日の声を出す瞬間を最高のものにする。 何気なく話したり歌うことを最高に幸せにする というのが私の役割です。 私は誰もが 自分とも大切な誰かとも響き合い 感動が共鳴するような世界を 目指して生きていこうと思っています。 大げさと思われるかもしれませんが、 私は本気でそう思っています。 声の響きが変わると 自分が幸せになるんです。 また 自分が幸せになると 声の響きも変わるんです。 そして自分の響きは相手と共鳴を生み出します。 『声』の言霊(ことだま)は 光(こ)と愛(え)なのだそうです。 自分の声が自分も大切な誰かも 光と愛で満たして幸せになる発声が 私の目指すものです。 そして、それが実現すれば 必ず世界はもっと素晴らしい響きに満ちてくると思っています。     コウタロー